「おい、誠!、おまえ新宿西口メガネに行ったか?」
級友、アベカンのまくし立てる電話で事件は発覚した。映画館に行ったら放映前のCMで新宿西口メガネが宣伝され、その中央にでかでかと映っていたというのだ。そういえば、大島で行われるクラブ合宿にOBとして付き添う前に、度付きのサングラスを作るために行った。そして、カウンターの女性が可愛かったので、熱心に質問したのだ。
「色つきとポラロイドサングラス、どちらにしようか悩んでいます。ポラロイドサングラスはどのぐらい濃くなるのですか?」
女性は色つきのレンズを出して、グレーとブラウンが、それぞれどのぐらい濃くなるのか説明してくれた。さほどおしゃれには気を使わない方だが、大島の日差しの強さは知っていたから(露出にして内地と2絞り違うんだ)、思い切り濃い緑色で発注した。かけているメガネを渡して度を合わせてもらい6000円の内金を入れ、キャンペーンだからとサンバイザーをもらった。確かにそのとき、店内で撮影らしきことをやっていた。
数日して受け取りに行った。ところがかけてみると、どうも様子がおかしい。中からベテラン風の男性が出てきてチェックしてくれたら、片目の度が間違っていた。本来なら作り直すと言うところだろうが、明日から大島に行くのだ。しばらくの間沈黙があった。仕方がないので内金を返してくれるかと申し出たら、「それで良いのなら」と嬉しそうに返してくれた。「どうしてくれるんだ!」と文句を言われるよりは良かったのだろう。サンバイザーはもらいっぱなしだった。
売買不成立という困ったシーンだったが、しばらくしてテレビでも流れ始めたらしい。らしい、というのは、当時僕は16時間勤務などというとんでもない会社に勤めていて、テレビを見る時間など無かったのだ。流れていたのはイレブンPMの時間帯。友人からは連絡が入るし両親も見ていた。
僕は大変なメガネの消費家だ。大変な汗っかきだし、メガネをしたまま風呂も入るし酔って寝てしまうこともある。メガネの寝押しも、ずいぶんやったっけ。だから次のメガネは新宿西口メガネに行った。自分の映った会社で買ってみたかったんだ。アルバイト風の男性にCMに映ったことを伝えたが、割引もなければCMを見せてもらうことも出来なかった。そして、その時作ったメガネは、一見丈夫そうで重かったが、後にも先にも最も短命なメガネになった。
数年経って、「近藤さん出ているCM見ましたよ」と何人かから言われた。どうやら昔のフィルムを再使用したらしい。しばらくして新宿西口メガネは無くなって、サクラヤメガネになっていた。未だにCMは見ていないし、もちろんお礼も何もない。1980年当時のイレブンPMを録画でもしている人がいたら確認して欲しい。無理だよな。当時、ビデオデッキもテープも、高かったものな。