1 デジタル写真とデジタル処理


 いつの時代にも新製品をはやし立てる言葉がある。技術が理解されるより言葉の浸透の方く、肝心の技術が理解されるより早く消えてしまうことも多いので、本質の部分がかわいそうになる。ファジー、ニューロ、バイオなんて最近は使われないし、マルチメディアだってどれだけの人が理解しているのか怪しいものだ。バーコードはビデオの予約では一時重宝されたらしいが、キャノンEOSに使われたバーコードによる撮影モード選択なんか誰が使ってるんだ。けれどもどの言葉も声高らかに叫べば商品が売れるのだから、メーカーも広告代理店もずいぶん楽をしているもんだ。「マルチメディアも大丈夫です」「WINDOWS95登載」「ペンティアムプロセッサー登載」「256色のフルカラー」「2メガの嵐が吹き荒れる」「インターネットがついてます」
馬鹿者!インターネットがつくわけないじゃないか!!素人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!!
 デジタルという言葉は比較的理解されているが、長きにわたり無節操に使われ続けている。腕時計で7セグメント表示(数字の8を7つの線で構成し、7つの内のどれを使うかで数字を表現する方法。9セグメントや13セグメントもあるが、それ以上はドットで表現することが多い)が流行った頃にデジタルの言葉がしきりに使われたが、あくまで表示がデジタルかアナログかということで、内部がデジタルでも針が回るものはアナログと呼ばれていた。「俺はアナログの方が使いやすい」などというのは本質的ではない。あのころ「出字タル」なんていう造語も出たが、どちらかというとこちらの意味で浸透していた。
 デジタルはCDが出たときに盛り上がった。不思議とレーザーディスクやVHD(ビクターを中心に取り組まれた別の画像記録媒体で、途中までは形勢有利であったがソニーがレーザーディスクに乗ったことで一気に逆転され、一部のカラオケに残っている程度)の方は、あまりデジタルデジタルと騒がれなかった。ここにきて、デジタルカメラが出て携帯電話が大々的にデジタルを叫び、ビデオもデジタル化して、デジタルは何度目かの大騒ぎ状態になっている。
 CDの出始めにデジタル録音やデジタルリミックスの違いなどが、パッケージに詳しく載っていた。要は録音からのどの段階からデジタル信号になったのかの問題なのだが、良く考えれば入口のマイクは今でもすべてアナログだ。マイクから出てきた信号を録音する段階でデジタル変換するのがデジタル録音だ。ところが、写真とデジタルの関係が一般レベルに知れ渡ったのはデジタルカメラの登場に合わせてで、これは録音で言えばデジタル専用のマイクが開発されたのと同じである。ここで大きな誤解が起こった。カメラの登場で急に盛り上がった写真のデジタル化だから、デジタル写真というと一気にデジタル撮影→デジタル出力をイメージしてしまう。
 写真を含む画像のデジタル処理は、以前より印刷分野で使われていた。多くは円筒形の回転式スキャナー(ドラムスキャナー)で画像を取り込んで製版フィルムを起こす。その途中で合成をはじめとするさまざまな加工が可能になっている。今、盛んに写真の分野でデジタルが叫ばれているのは、最終的にはカメラから出力までの全域にわたってデジタル化することではあるが、写真という言葉のもつ品質をデジタル化することが出来ているのは、既存のフィルムをスキャナーで読み込んで処理する部分までである。そして、その部分では充分写真品質を出すことが出来ているのだが、デジタルカメラの品質をとらえて写真はデジタルではダメだと思ってしまう人がおおい。


2 デジタル写真の大きさは?


 写真におけるデジタル化の最終目標は、デジタルカメラで撮影して最終出力を写真の品質で出力することである。写真のデジタル処理はかなりのレベルに進んでいるが、入り口の部分のデジタルカメラに関しては最終出力の目標にブレーキをかけている。けれどもこれに怒りを感じてはいけない。いままで、どのメディアに関しても入り口と出口がネックになっていたのだ。
 オーディオはコンポーネントの全盛期に狂乱のブームを迎えたが、ブームが沈静化するときの結論は、「マイク・カートリッジとスピーカーが重要」だった。考えてみれば当たり前で、途中のアンプなんかは全てが電子部品だから性能の向上は簡単。空気中を漂う空気の振動である「音」を電子信号に変えるマイクと、レコードに刻まれた溝を電気信号に変えるカートリッジ、そして最終段階で音を再現するスピーカーは(時にはヘッドホン)電気信号と音声信号を変換するという過酷な仕事をする分だけ性能を要求されたわけだ。
 デジタルによる固定映像=デジタル写真も、当然ながら入り口と出口の部分にボトルネックが存在する。ところが音声に比べて出入口の部分は、結構簡単に解決したようだ。写真よりも印刷の分野が先行していた。印刷はインクを紙の上に乗せるという宿命から、写真を網点に分解する必要がある。カラー印刷ならそれをCMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・墨)の4色に分けて網点化する。以前は反対色のフィルターをかけてコンタクトスクリーン(印刷用の網点を作るための方形の隙間を有するガラス上に配置されたパターン)を使っていたが、今はスキャナーで分解するのが一般的だ。このスキャナーは当然デジタル処理で、能力的には充分写真の品質になっていた。出口は勿論印刷なので1枚の出力といった場合には向かない。
 細かい話になるが、印刷の時の網点は新聞で1インチ60〜80。一般のチラシで100〜150ぐらい。うるさい写真集で200ぐらいになる。これは印刷の段階のインクの網点で、それをサポートするための元のデータは、その2倍の数値になる。その中の一番うるさい写真集の200を実現する為には400dpi(ドット/インチ)になるが、丁度その解像度を実現したカラープリンターがある。フジフィルムのPICTROGRAPHY3000だ。雑誌などに掲載されているカラープリンターの解像度は平気で400〜600dpiになっているから大したことは無いだろうと錯覚するが、一般のプリンターが数個のドットでフルカラー(一般的には約1677万色)を表現するのに比べて、PICTROGRAPHY3000は一つ一つのドットをフルカラー表示できる。この品質をもって写真品質と言える。もちろんそのためのデータ量は半端ではなく、A4を出力するために40Mbyteを越える。けれども逆に言えば、裸のデータで(一般的に大きなデータには圧縮手段が用意されている)40Mbyte用意すればA4すなわち約ワイド6ツ切りの表現が可能になる。
 話をデジタルカメラにもどそう。写真のデジタル化では、出口のネックが解決されると、次なるは入り口のカメラである。じっくりとスキャンできるフィルムスキャナー(撮影現像済みのフィルムからデジタルデータを得るための装置)と違って、デジタルカメラは一瞬を切り抜かなければならない宿命を背負っている。それが実現できなければカメラになれない。その為にフィルムの役割を代行するCCDに全ての性能がかかってくる。
 CCD(レンズを通った光を電子信号に変える半導体素子)はビデオカメラの為に開発された。TR-55を筆頭とする小型ビデオカメラの初期の段階では、CCDの一般的な画素数(画面を表現するための点の数)は約27万画素だった。これがS-VHSやHi8の登場に合わせるように40万画素になった。この数値を論じるために、先ほどのPICTROGRAPHY3000のデータと照らし合わせてみよう。PICTROGRAPHY3000はA4より少し大きいのだが、その画素は4709×3431dot(点)になり、各数値を掛けた値は約1521万画素になる。ちなみに容量は42.6Mbyteだ。これをカメラの段階で実現できれば、ワイド6ツ切りまでのサイズに今までの撮影システムは不用になる。さらに突っ込めば、35ミリフィルムをワイド6ツ切りに伸ばしすと、すでに粒子が目立っているから、許容範囲を広げれば何とか半切ぐらいには追いつける。


3 画像圧縮の目標は?


 デジタルカメラで撮影して従来の写真とほぼ同品質で出力することを目標にした場合、画像の圧縮技術を借りなくてはならない。先にも説明したように、プロレベルの品質でA4を出力するためには46.2Mbyteの容量が必要だ。
 現在出回っているデジタルカメラの品質は、綺麗に3段階に分かれている。実売価格10万円前後、100万円前後、300万円以上であり、中間的存在は少ない。圧倒的に売れている10万円前後のものはビデオカメラに搭載されているCCDを利用した物が多く、10万円より安い物で27万画素のものが10万円前後の物には41万画素の物が多く用いられている。各メーカーから出ているが、デジタルでは先駆的存在のコダックのDC-40で見てみよう。このDC-40は他の商品がビデオ用のCCDを流用しているのに対してデジタルカメラ専用のものを用いている。
 実際に使ってみると画質はポラロイドかポケットフィルム程度である。サービス判で考えると多くの人はハーフサイズでも満足していたから、もう少しというところだろうか。DC-40は撮影した画像を内蔵の4Mbyteのメモリーに蓄える。高画質モードで48枚撮影できるが、画像の大きさは1.09Mbyteだから単純に48倍すると52.32Mbyteとなり、入るわけがない。4Mbyteに入れているわけだから約13分の1に圧縮されていることになる。
 画像の圧縮には様々な規格があるが、圧縮率を上げれば上げるほど解凍したときの画質は悪くなる。例えば白と黒の境目の様なところににじみが出てくるのだが、DC-40が行っている13分の1程度の圧縮までなら画質的には問題がないらしい。ちなみにDC-40のスナップモードは更にその2倍の圧縮になるが、こちらの画質はかなり悪い。
 さて、銀塩写真で35ミリフィルムの画質を確保する計算をしてみよう。かなり仮説だらけの計算になるが、ピクトログラフィー3000のA4出力がプロの目を満足させるレベルだ。2Bフィルムの画質が十分出ているから、35ミリ換算だと、おおざっぱに考えて10Mbyteで十分だ。DC-40の13分の1の圧縮が可能となれば0.75Mbyteのメモリーに写真1枚が入る。一般の人はハーフで満足していたと言うことになればさらにその半分。36枚取りフィルムを置き換えると13.5Mbyteになる。DC-40の3〜4倍のメモリーを搭載すれば36枚取りまではクリアーできる計算になる。勿論画質の考え方に異論は多いだろうが、使い捨てカメラの現状を見るとこれで十分だ。
 さて、画質を決めるのはメモリーの容量以前にCCDそのものの性能がある。メモリー環境は単に保管場所の問題だから、入れる内容そのものの品質の方が重要なのだ。


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