第1回
 2月1日、コダックと日本のフィルムメーカー3社・カメラメーカー1社で合同開発した新規格フィルム=APSが正式に発表された。ベロの出ていない小型フィルムを使うことでフィルムの詰め込みミスなどを防ぐと共に、さまざまなデータが磁気トラックに書き込まれると言うシステムで、カメラからして全てが違う。現行カメラの買い控えを危惧したメーカーが情報を隠したために、業界およびマニアの間では批判的な声が多く聞かれた。4月22日の発売にむけてAPSを極力冷静な目で観察してみたい。3回連続のこの記事は、今回がAPSの発売に向けての考察。2回目がAPSの正体。3回目は発売後になるが、APSを見据えた上での写真の今後というテーマで書いていく。
 僕が最初にAPSの噂を聞いたのは去年の夏のことだったと思う。仕入れルートの中では最もプロ機材に強い(株)宮崎の担当者から「今更銀塩という声があがっていまして」という但し書き付きで新聞記事のコピーを見せてもらった。APSはアドバンストフォトシステムの略で、早い話が「未来を見据えたこれからの写真システム」という、アルファベットにしないと恥ずかしいような安易なネーミングである。ご存じの人もいるかと思うが、写真の感光に欠かせない銀は、今のままで使い続けると15年で枯渇してしまう。丁度出てきたデジタル写真の分野に素人のスナップを向かわせれば、プロの必要とする銀も長持ちするだろうなどと言われていた頃だ。僕だってその記事を見てからしばらくは馬鹿なものを作るものだと思っていたし、DAUBERの文面でも「消えゆくサイズ」の中で「買ってはいけません」とまで明記した。断って置くが、今でもWINDOWS95騒ぎの様な事態になったときには「慌てて買うな!!」の大声を発するつもりである。
 この批判的な傾向は流通業界のみならず専門書の分野でも同じだった。僕の知る限りでは、コダックを中心とする合同各社の息のかかった関係以外から、賞賛の声は聞けなかったのである。また、中心となったのがコダックであったがゆえに、35ミリフィルムの後から出た、ポケット・パック・ディスクという、35ミリフィルムより小さなフィルムサイズを有する新規格がことごとく消え去った事を思い起こし、「もういい加減にしろ」というぜりふをはきたかったのも事実である。
 さて、APSの全容が発表された。発表前まで国際的テロリストと同等に恐れられてきたブラックリストの筆頭人物、月刊写真工業の編集長=市川さんが、一気に考えを意外な方向に向け始めた。その人の言葉をほぼそのまま書こう
「閉鎖的なカメラ業界の責任なんですが、何も知らずに非難するもんでは無いですよ。あれは大したものです。今まで消えていったサイズと違って、たぶん一気に普及するでしょう。コダックだけではなくたくさんのメーカーが足並みを揃えましたし、使い捨てカメラが普及している今ですからね」
早口の市川さんの言葉はまだまだマシンガンのように出てきたが、単に言葉だけでなくカメラ・フィルム・プリントが目の前に出されたときは、私もその言葉を認めないわけには行かなかった。
 テレビで、店頭で、APSはそれ自身の持っている可能性を余すところ無く宣伝されるだろうが、その陰に問題点(システムにそれほどの問題点があるとは思っていない。販売方法と半端な製品の登場を危惧している)は隠されていくであろうし、本来の魅力さえも、今までのカメラを捨てなくては損するような過剰な宣伝に使われるだろう。そういう宣伝活動を行わなくてはならないのが企業の宿命だとしても、その力が生み出す錯覚にたちむかうのが、消費者と地域密着型の小さな専門店の「必要な抵抗」だと思う。
 今、3月3日はこの文章だけだが、寄せられる声と自らの考察を添えて、DAUBERと写真屋の紙面、そしてインターネットホームページでは、デジタルオヤジにつぐ第2の高速増殖ページとして進めていきたい。
第2回
 APSの特徴は色々あるが、まずはベロの無いことがあげられる。コダックは約10年毎にフィルムの新規格を出しているが、パック・110・ディスクなど、すべてベロを無くしている。これは、撮影時のトラブルのほとんどがフィルム装填のミスに寄って起こるからで、特に最近ではベロをしっかり溝に差し込むタイプとふたを閉めるだけのタイプが両方が出回っているために、ふたを閉めるタイプしか知らない人が何らかの理由でベロを差し込むタイプを使い、旅行中のすべてのフィルムを未露光にしてしまうケースもあった。もともと35ミリフィルムは映画用のフィルムをパトローネに巻いただけの単純な構造だから、トラブルを回避するにはカメラメーカーが個別に対策を打たなければならなかった。実はポケットやパックなどと違ってAPSにはベロがある。ただ、通常は中にしまわれており、カメラが引き出して巻き上げているのだ。
 APSのフィルムサイズは17×30mmで面積的にはフルサイズとハーフとの中間。微妙なことを言えばきりがないが、ハーフで撮影しサービス判で満足していた人には問題ない。比率はハイビジョンテレビの9:16になっている。これは黄金比と言って人間がもっとも綺麗と感じる比率で、歴史的建造物の柱の区切れの分割位置や5角形の星形の頂点を結ぶ線同士が分割しあう比率でもある。APSではこのハイビジョン比率を標準「HD」で、長編をカットしたものが今までのサイズと同じで「クラシック」、上下をかとしたものが「パノラマ」になる。しかしAPSのサイズ途中切り替えの機構は今までの方法とは全く異なっている。
 APSのもう1つの特徴に磁気トラックの存在がある。フィルムの端に塗布された磁気部分に撮影データ等が記録できる。HD・クラシック・パノラマのどのサイズで撮影したかはこの磁気部分に情報として書き込まれており、どのサイズで写してもフィルムの画面自体はHDサイズで感光している。フィルムが現像されてプリントするときに、プリンターはその磁気情報を読みとって3種類のサイズを焼き分ける。磁気トラックに記録される情報は他にも撮影時にストロボが光ったかどうかの記録などがあり、これは機械焼きプリントの品質向上に役立てられる。一般的に使われているスキャンニングタイプのプリンターは、画面の中の濃度や色の分布をコンピューターで分析して自動的に濃度調整や色補正を行っているのだが、ストロボが光ったために被写体が明るくなったのか、それとも単に被写体が白いものなのか等が識別できない。白い服や金屏風の前で撮影した写真が黒くなってしまうのに気がついている人も多いだろうが、撮影時のデータが引き渡されれば自動補正の完成度は高くなるはずである。磁気トラックの記憶量は1.4Mbyteもあるが、今の所使われているのは10分の1以下。今後発表される機能も多いのだろう。なお、磁気トラック故に書き換えも可能で、DPE受けの時にサイズの変更なども可能だ。
 35ミリフィルムは現像されるとネガシートに入ってきたが、APSは現像されてもカートリッジに入って戻ってくる。そのままではフィルムを見ることは出来ないので、フィルム全駒を小さく焼いたインデックスプリントがついてくる。マニアはネガを見ないと納得しないことが多いが、引き出す方法も無いことはない。
 一般ユーザーの立場で画面の小ささによる画質の低下はほとんど問題にならないだろう。いま考えられる一番の問題点は、せっかくAPSが開発されたのにサイズの切り替え程度の機能しか搭載せず、磁気トラックを有効に活用しない半端なカメラが発表されていることである。コダック社から発表されているカメラの半数はそのような機能の無いもので、実際に発売されれば通販などを中心に「今話題のAPSフィルムが使える」というだけの半詐欺販売が行われる可能性が高い。さらに磁気ヘッド等の搭載は精密さを要求されるので廉価版をつくることが困難なため、単にフィルムが入るというだけの商品も出回る可能性がある。
 そして、もう1つの問題点。プリントの価格である。以前にもましてHDやパノラマが気楽に使えるようになると、ラボ業界が設定する価格によっては、仕上がりの時に金額の高さにびっくりするような可能性も出てくる。EC判やL判の価格が下がりすぎたための事とはいえ、知らずにHDを使ってプリント価格が2倍になるというのは今までにもあった問題点だ。

第3回
 一番心配されているDPEの価格がだいたい出そろったのが発売の1週間前だった。写真屋ルートの金額だが、今までのL判相当が30円、ハイビジョンが35円、パノラマが80円になっている。今までハイビジョンサイズが50円相場だったのを考えると、良心的というべきかハイビジョン主流をもくろんでいるのか。どちらかと言えば後者だろう。現像所内のプリンターは混在を同時処理出来るプリンターばかりになるだろうから、パノラマが80円のままというのは高めで、下がってくることが考えられる。
 フィルム現像料金は約100円高くなっている。これはインデックスプリントを作る都合上、致し方ないところだろう。APSはフィルムがもとのケースに戻って納品され簡単にフィルムを見ることが出来ないから、インデックスプリントは重要だ。
 ひとつ腑に落ちないことがある。サービスプリントは上記のL判の幅を基本としたものと、ハガキの大きさ(L判より大きい)を基本としたものの2系列がある。本来比率で決められているAPSだから、どちらの系列でも長辺・短辺の比率は等しくなるはずなのだが、なぜかパノラマだけがどちらの系列でも同じ長さになっているのだ。だから、ハガキを基本としたサイズのパノラマはL判系のパノラマほど細長くない。どのようなトリミングになるのかの明記は無い。試してみたいところだ。
 しかし、もっとわからないのは宣伝方法。4月22日の一斉発売を期に各メーカーが大騒ぎするものと思っていたが、なぜか口裏を合わせたかのように新システムで有ることを歌っていない。通常の新製品カメラの宣伝と同じなのだ。個人的には嫌いだが、メーカーとしては「買わなきゃ損」という宣伝を繰り広げるのが普通ではないのだろうか。フジフィルムからの報告では、年内8%、5年間で50%の普及を見込んでいると言うが、8%と言うのは大変な数字だ。新商品はどんなものでも7%を過ぎると一期に普及するという。テレビでもビデオでも洗濯機でもそうだった。逆に言えば、普及しなかった商品というのは7%に到達できなかった商品とも言える。
 予定通りとはいえ今回で連載を終了するが、今回掲載予定だった「APSを見据えた上での写真の今後」というテーマは当分見送ろう。メーカーの本心が見えないから考察が進まないのだ。
とりあえず おわり

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